イワンのばか

 イワンのばか、は難しい話のように思った。この作品を読んでいる間は悪魔の思惑をことごとく挫くイワンが痛快に感じる。ただ、イワンが王となった国で頭を使った生き方を演説して最後は死んだ悪魔の親方を不憫に思えなくもないのである。あくまで悪魔の親方が”頭を使った働き方”に人々を誘惑して怠惰にしてやろうと邪な計らいをした報いである、と捉えるならそれでいいのかもしれない。ただ、ばかの国の人たちは「手や背中を使って農作業などをするのではなく、頭という部位を物理的に使ってどうやって働くのだろう」と思っていたようである。いわゆる頭を使う仕事(現代で言ったら例えばコンサルタントとか)に価値を認めていないようであった。ばかの国の人たちは欲もなく悪魔の誘惑にも乗らないような人たちだけれども、だからといってその人たちの国の仕組みが理想的である、という訳でもないだろう。

 金貨に対して冷めた見方をするばかの国の人たちにとって金貨はただのおもちゃと変わらない。現実の世界にある紙幣や貨幣を見たときにそれをおはじきや何かとは同じに見られない私たちはもうすでに悪魔にやられていると思う。それ自体は悪いことではないと思いつつ、自分で食べ物を作って生きていけるばかの国の人たちの余裕から、お金に頼らずに生きていく人の強者感にも気づかせられるお話だった。